IO-LinkとIO-Link Wirelessの特徴と比較

製造現場のデジタル化とスマート化を推進する二つの重要技術、IO-LinkとIO-Link Wirelessについて解説させていただきます。 これらの技術は、製造現場のセンサやアクチュエータをデジタルネットワークに統合し、リアルタイムでのデータ収集、診断、パラメータ設定を可能にします。例えば、圧力センサの測定値の遠隔モニタリング、振動センサによる設備の予防保全、製造条件に応じた自動設定変更など、従来は困難だったセンサレベルの監視や制御ができるようになります。
ここでは、それぞれの基本的な特徴、導入による利点、そして技術仕様について詳しく見ていきます。

IO-Linkとは?

IO-Linkは、産業用通信技術の一つで、センサやアクチュエータをPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)などの上位システムに接続するためのオープンで標準化されたプロトコルです。この技術は、2006年に開発され、2013年には国際規格IEC61131-9として標準化されました。

IO-Linkを導入することで、最下層のセンサレベルから最上位の情報ネットワーク層まで、シームレスな通信と情報の流れを作ることができ、工場全体のデジタル化と効率化に貢献します。

IO-Linkの産業用ネットワークにおける位置づけ

産業用ネットワークは、一般的に、以下の5つの階層に分類されます。

階層 内容
情報ネットワーク層 最上位に位置し、工場全体や企業全体の情報を管理します。ERPやMESなどの基幹システムが含まれ、主に標準的なイーサネットが使用されます。
制御ネットワーク層 工場内の各生産ラインや設備を統括的に制御・監視する層です。SCADA(監視制御システム)などが含まれ、産業用イーサネットプロトコル(例:EtherNet/IP、PROFINET)が使用されることが多いです。
コントローラレベル層 個々の生産設備や機械を制御するPLCやDCS(分散制御システム)が配置される層です。高速で信頼性の高い通信が求められ、EtherCATやCC-Link IEなどの産業用リアルタイムイーサネットが使用されます。
デバイスレベル層 アクチュエータやI/Oデバイスなど、実際に機器を制御する装置が配置される層です。PROFIBUS、DeviceNet、CC-Linkなどのフィールドバスが使用されることが多いですが、近年では産業用イーサネットの採用も増えています。
センサレベル層 最下位に位置し、各種センサやスイッチなどが接続される層です。ここで、IO-Linkが重要な役割を果たします。

IO-Linkは、主にセンサレベル層で使用される通信規格です。IO-Linkは、センサやアクチュエータとIO-Linkマスタを直接接続するポイント・ツー・ポイント通信を使用し、各デバイスが個別にデータを送受信できるようになります。

基本的な特徴

IO-Linkの基本的な特徴について、接続方式、双方向通信、簡易設定と保守の3つの観点から解説します。

接続方式

IO-Linkは、センサやアクチュエータと上位の制御機器を1対1のポイント・ツー・ポイント接続で結ぶシンプルな通信方式です。通常は3線(Class A(Port Class A)規格)または5線(Class B(Port Class B)規格)の非シールドケーブルを用い、従来のセンサ配線と同様の簡単な接続で済みます。通信距離は最大20メートルまで延長可能で、工場の生産ラインなど一般的な産業用途に対応できます。

双方向通信

双方向通信をサポートしており、コントローラからデバイスへの制御指令とデバイスからコントローラへのフィードバックを同時に行います。センサやアクチュエータからプロセスデータ、パラメータ情報、診断情報をリアルタイムで取得できます。

簡易設定と保守

IO-Linkマスタはデバイスのパラメータ設定を自動的に保存できるため、デバイスの交換時に新しいデバイスに設定を転送することができます。デバイスが故障した場合でも、交換後の新しいデバイスに自動的に設定が転送されるため、手動での再設定作業が不要です。従来は熟練の作業者が必要だった保守作業が大幅に簡素化されます。

利点

配線工数の削減、診断機能の強化、多様なデバイスとの互換性など、産業用フィールドデバイスのデジタル化による具体的な利点について解説します。

配線工数の削減

従来のセンサやアクチュエータでは、電源線、信号線、アナログ出力線など複数の配線が必要でしたが、IO-Linkでは3線式の標準的な非シールドケーブルで済むため、配線作業の手間が少なくなります。工場における設備投資の初期費用を抑えられるだけでなく、配線トラブル対応などのメンテナンスコストも抑え、また制御盤のコンパクト化も可能です。

診断機能の強化

IO-Linkデバイスは、デバイスの動作状態、内部温度、稼働時間などの詳細な診断情報をモニタリングでき、故障の予兆を早期に検知することができます。デバイス自体のエラー内容をIO-Linkマスタ経由で把握できるため、ネットワーク経由で装置の遠隔診断を実施することが可能になります。センサレベルがネットワーク化する事により、遠隔診断の解像度が上がり、ダウンタイム削減に貢献します。

多様なデバイスとの互換性

IO-Linkは国際規格(IEC 61131-9)として標準化されており、世界中の様々なメーカーのデバイスと互換性を持っています。使用者は用途や予算に応じて比較的自由にデバイスを選択でき、特定のメーカーに依存することなくシステムを構築できます。また、既存の設備に新しいデバイスを追加する際も、メーカーを問わず柔軟な拡張ができる場合が多いです。

CKDのIO-Link対応製品

CKDは流量・圧力センサから着座確認スイッチまで、様々なIO-Link対応製品を揃え、精密計測とプロセス管理をサポートしています。

階層 内容
フルーレックス水用流量センサ
「WFK2シリーズ」
・デジタル表示画面搭載
・流量調整が簡単
静電容量式電磁流量センサ
「WFCシリーズ」
・水温測定機能標準装備
・スルー構造により悪い水質でも使用可
小形流量センサ・ラピフローⓇ
「FSM3シリーズ」
・高精度・高応答
・ガス種切替機能
デジタル圧力センサ
「PPXシリーズ」
・コンパクトサイズ
・現在値を見ながら設定変更可能
着座確認スイッチ
「GPS3シリーズ」
・デジタル表示で着座状態が一目で分かる
・高精度2点出力

CKDの製品や導入について詳しく知りたい方は是非お問い合わせください。

IO-Link Wirelessとは?

IO-Link Wirelessの最大の特徴は、産業用途に特化した無線通信プロトコルであることです。一般的な無線通信規格とは異なり、工場環境での使用を前提に設計されており、ノイズ耐性や通信の安定性が重視されています。

IO-Link Wirelessであれば、従来は配線が必要だった産業用センサやアクチュエータを、配線なしで制御システムに接続することが可能です。特に、ロボットアームの先端部や回転機器など、ケーブル配線が困難だった箇所での活用が期待されています。

基本的な特徴

IO-Linkの基本的な特徴について、接続方式、双方向通信、簡易設定と保守の3つの観点から解説します。

高い信頼性

IO-Link Wirelessは、通信エラー率が10億分の1という非常に高い信頼性を誇ります。電波干渉を防ぐために周波数ホッピング方式を採用しており、他の無線システムとの干渉を回避しながら安定した通信を維持します。工場の制御系での無線通信が可能になり、有線システムに匹敵する安定したデータ伝送ができます。

迅速な応答時間

IO-Link Wirelessは通信遅延がわずか5ミリ秒と速く、現場のデータをリアルタイムで把握できます。例えば製造ラインで異常が発生した場合、すぐに検知して対応できるため、不良品の発生を最小限に抑えられます。

柔軟な接続

1つのマスタに対して最大で16台のデバイスを接続でき、サイクリック通信を通じて定期的なデータ送信が可能です。柔軟な接続構成により、工場の生産ラインや設備の状況に応じた最適なシステム構築を可能にします。

利点

IO-Link Wirelessは、従来の有線IO-Linkに比べて、多くの利点があります。ここでは、その主な利点について解説します。

配線の削減

IO-Link Wirelessを使用することで、従来の有線接続に比べて配線が大幅に簡素化され、設置作業が容易になります。配線工事や保守にかかるコストも削減でき、設備の拡張や変更時の柔軟性も向上します。

可動部での利用

ロボットアームや回転テーブル、自動搬送装置(AGV)など、動きのある機器では、ケーブルの屈曲や捻れによる断線が大きな課題でした。IO-Link Wirelessは無線通信であるため、可動部への配線が不要になり、断線リスクを無くします。

技術仕様の比較

ここでは、IO-LinkとIO-Link Wirelessの接続方式、データ伝送速度、通信方式など、主要な技術仕様を比較して見てみましょう。

IO-Link

接続方式

IO-Linkの接続方式は、シンプルかつ使いやすい設計が特徴です。デバイスとIO-Linkマスタの接続には、3線(Class A(Port Class A)規格)または5線(Class B(Port Class B)規格)の非シールドケーブルを使用します。コネクタは M5、M8、M12 規格に対応していますが、一般的には M12 コネクタが採用されています。(M型コネクタではなく、プッシュイン端子などのばら線を使用することも通信仕様上は可能です)ケーブルは最長20メートルまで延長可能で、工場の生産ラインなど一般的な産業用途に十分対応できます。

データ伝送速度

IO-Linkは、以下の3種類の伝送速度(COM1、COM2、COM3)をサポートしています。
・COM1: 4.8 Kbit/s (最速18msで伝送)
・COM2: 38.4 Kbit/s (最速2.3msで伝送)
・COM3: 230.4 Kbit/s (最速0.3msで伝送)

これらの伝送速度は、接続されるデバイスの性能や用途に応じて選択されます。IO-Linkマスタは、接続されたデバイスの伝送速度に合わせて自動的に通信速度を設定します。

IO-Link Wireless

通信周波数

IO-Link Wirelessは、2.4GHzのISMバンド(産業・科学・医療用バンド)を使用する無線通信規格です。この周波数帯域には80のチャンネルが1MHz間隔で配置されており、他の無線システムとの干渉を最小限に抑えるための工夫が施されています。

接続方式

1つのIO-Link Wirelessマスタで最大40台のデバイス(センサやアクチュエータ)をサポートでき、5ミリ秒という短い応答時間でリアルタイム通信できます。バッテリー駆動やエネルギーハーベスティングセンサにも対応しており、最小限の消費電力でリアルタイムネットワークが構築可能です。

データ伝送速度

基本的なデータ転送では、サイクリック通信を行い、最少サイクルタイム5ミリ秒で通信しています。これは産業用途で求められる高速な応答性を満たす速度です。

通信エラー率

通信エラー率は10億分の1という極めて高い信頼性を実現しています。これは、一般的な無線通信規格である無線LANやBluetooth(エラー率1000分の1程度)と比較して、はるかに優れた性能です。制御系の通信にも安心して使用することができ、有線システムに匹敵する信頼性があります。

コンポーネントの比較

ここでは、デバイス、ケーブルなどIO-LinkとIO-Link Wirelessを構成するコンポーネント(構成要素)の視点から両者を比較してみましょう。

IO-Link

IO-Linkデバイス

IO-Linkデバイスは、センサ、アクチュエータ、スイッチ、バルブ端子、RFIDデバイス、信号灯があります。これらのデバイスは、プロセスデータ(測定値や制御値)、パラメータデータ(設定値)、診断データ(デバイスの状態情報)をIO-Linkマスタとの間でデジタル通信を行います。

IO-Linkマスタ

IO-Linkマスタは、IO-Linkデバイスと上位の通信システム(例:PROFINETやEtherNet/IP)との間のゲートウェイとして機能する重要なコンポーネントです。一般的に複数のIO-Linkポートを持ち、各ポートに1台のIO-Linkデバイスを接続することができます。

3線ケーブル

IO-Linkデバイスとマスタを接続するために使用される標準的な非シールドケーブルです。L+(24V電源)、L-(0V)、C/Q(通信/スイッチング信号)の3線で構成され、一般的にM12コネクタを採用しています。

IODDファイル

IODDファイル(IO Device Description)は、IO-Linkデバイスの電子カタログとも言える標準化されたXMLファイルです。このファイルには、デバイスの識別情報(メーカー名、製品ID、シリアル番号など)、通信パラメータ、プロセスデータの構造、診断情報、パラメータの設定範囲など、デバイスに関する詳細情報が記述されています。

IODDファイルはメーカーに依存しない統一フォーマットで作成されているため、異なるメーカーのデバイスであっても、同じエンジニアリングツールで設定・管理が可能です。

特に、デバイス交換時には保存されているIODDファイルの情報をもとに、新しいデバイスへパラメータを自動的に転送することができるため、設備の迅速な復旧が可能になります。

IO-Link構成ツール

IO-Link構成ツールは、IO-Linkシステムやデバイスのプロジェクトエンジニアリングやパラメータ設定を行うためのソフトウェアツールです。

主な機能として、以下のようなものがあります。
・通信制御
・デバイスパラメータの保存と自動転送
・上位システムとのデータ交換
・状態監視と診断

IO-Link Wireless

IO-Link Wirelessマスタ

IO-Link Wirelessマスタは、無線IO-Linkシステムの中核を担う重要なコンポーネントです。センサやアクチュエータなどの無線デバイスと上位の制御システム(PLCなど)との間の通信を管理します。従来の有線IO-Linkシステムとの互換性も確保されており、既存のIO-Link構成ツールやIODDファイルをそのまま活用できます。

無線デバイス

IO-Link Wireless対応の無線デバイスには、センサ、アクチュエータ、バルブがあります。これらのデバイスは、IO-Link Wirelessマスタと無線通信を行い、プロセスデータ、パラメータデータ、診断情報などをリアルタイムでやり取りします。

通信チャンネル

IO-Link Wirelessは、2.4GHzのISMバンド(産業・科学・医療用バンド)を使用し、80の通信チャンネルを1MHz間隔で配置しています。マルチパス通信技術により、工場内の金属や壁などによる電波の反射や遮断の影響を最小限に抑え、信頼性の高い無線通信を実現しています。(金属で完全に遮蔽された空間では、無線電波も遮蔽されます)

その他、IODDファイルやIO-Link構成ツールも必要なコンポーネントですが、これらはIO-Linkの章で説明したものと同様になります。

CKDのIO-Link Wireless対応製品

CKDは、制御機器のリーディングカンパニーとして、IO-Link Wireless対応製品を展開しています。

シリーズ 特長
IO-Link Wireless入力ユニット
「WDシリーズ」
・デジタル16点入力の名刺サイズ無線入力ユニット
・IO-Link Wirelessの特性を活かし、ロボットハンドや回転テーブルなど可動部での仕様が可能
・IO-Link Wirelessマスタを経由して、EtherNet/IP、PROFINET、EtherCATなど多様なネットワーク接続が可能
IO-Link Wireless対応
電磁弁マニホールド
「TVGシリーズ」
・出力点数32点
・可動部に設置可能。ロボットハンドや回転テーブルなど可動部での位置決め機構追加が可能
・耐久回数1.2億回。IP65/67

CKDのIO-Link Wireless対応製品に関するご不明点は、技術相談窓口までお気軽にお問い合わせください。